社員食堂にてシックスセンス

私は雑踏の中にいると、そこにいる人々の会話に聞き入ってしまうことがよくある。以前は一人で居酒屋で飲みながら、周囲の他愛もない話や愚痴に耳を傾けていた。盗み聞きではない。耳に入ってくるのだ。
体調が良ければ楽しいのだけど、調子が悪いと、さらに気分が落ちてしまうのだけど、耳は目と違って閉じることができないので、半ば意識的に聴覚の感度を落としていた。
そうすると、喧騒がホワイトノイズになり、あまり気にならなくなる。
そうしているはずが、時折、そのホワイトノイズがサンドストームになる時がある。今日はそんな日だった。
特に周囲の人の笑い声が迫ってくる。おそらく、何か楽しい話題の世間話などしているのだと思うが、どうしても他人の笑い声が耳につく。
別に、自分が笑われてるような気がするというような被害妄想はない。しかし、その笑い声が、ひどく空虚に聞こえてしまって、果たして、この人たちは、本当に活き活きと生きているのだろうか?という疑念が湧き上がる。ひょっとして、私は生きてない人たちの中にいるのではないか?
更に意識して聴覚を抑制しようとすると視覚のノイズが気にかかる。
あそこを歩いている人は、次のテーブルの辺りで右に曲がってあの辺りに座るのだろうか?どうしてあんな大勢でつるんで、空きテーブル探しで右往左往してるのだろうか?あの人はどうして隣の椅子の背もたれに腕を乗せてふんぞり返ってるのだろうか?食器返却口の淀んだ行列はなんだ?食べ終わっても並ばないといけないのか?
思い直して、さして御馳走でもない料理の味に集中する。自分ならどうやって作るか想像する。外食よりは安いが、この売価は高いだろ。いやお金の計算ではない。味に集中するのだ